抗てんかん薬の副作用


目次

はじめに

概要

副作用の種類

急性副作用と慢性副作用

薬物相互作用

疾患関連性副作用

発作誘発

強制正常化による精神症状、食欲低下

胎児催奇作用

新生児への影響

主要抗てんかん薬の副作用

a. フェニトイン

b. フェノバルビタール

c. バルプロ酸

d. カルバマゼピン

e. ベンゾジアセピン系薬剤

f. ゾニサミド

g. エトサクシミド

h. トピラメート

i. ギャバペンチン

j. ラモトリギン

k. レベチラセタム

L. ラコサミド

M. ビガバトリン

N. ルフィナミド

O. ペランパネル

参考資料

はじめに

 抗てんかん薬による治療をお勧めすると、薬の副作用をおそれ、服薬を躊躇される方が時々みえます。
 たしかに、薬に副作用がつきものです。しかも、てんかん治療の場合、年単位で服用することがほとんどですから、薬の害が積み重なっていくおそれもあります。副作用を心配されるのは無理もありません。
 しかし、治療をはじめる前から副作用のことばかり心配するのも、ちょっと、考えものです。
 なるほど、薬は一種の「毒」です。少なくとも、生体はそのように認識しています。その証拠に、肝臓は多くの薬を酵素によって無害な物質に変換し、なんとか「解毒」しようとします。あるいは、腎臓は薬を不要物として尿の中に捨ててしまいます。
 しかし、一方で、薬はそうした生体防御機能をくぐり抜け、何らかの効果、薬理作用を発揮します。そして、通常は、薬理作用による利点が副作用による欠点を上回ります。薬の効果によって病状が改善し、生活の質(生命予後も含め)も向上し、その一方で、副作用は無視できるほど少ない(少なくとも生活に支障をきたすほどではない)場合がほとんどです。だからこそ、多くの薬が治療薬として生き延びてきているわけです。
 しかし、ともかくも、よく知らないことは、必要以上に怖くみえてしまうものです。「敵」の正体が明らかになれば、適切な判断もできるようになります。そこで、以下に、抗てんかん薬の副作用のあらましをお話ししてみたいと思います。

概要

てんかんの薬物治療では、数年から、ときには数十年にわたって抗てんかん薬を飲み続けることがめずらしくありません。ですから服薬開始後すぐに現れる副作用のみならず、時を経て現れてくる症状にも注意を払う必要があります。
 しかし、薬の副作用は、無数にあります。表に抗てんかん薬の主な副作用をお示ししましたが、ここに書かれているのは、実は、副作用のほんの一部にすぎません。抗てんかん薬に限りませんが、こうした薬の副作用を全て理解し、記憶しておくことは、医者にも、不可能です。それに、市場にでたばかりの薬の場合、治験段階では認められていなかった副作用が年月を経てみつかってくることもあります。薬の副作用を完全に把握することは、もともと、できません。ですから、薬を飲んでいて、おかしい、と感じたらどんなことでも結構です、担当医に相談してください。「この薬は自分に合わない」、「この薬は気に入らない」といった、あいまいで、ささいなことでもかまいません。そうした訴えが、薬の副作用に気づく大切な一歩になります。
 しかし、いうまでもありませんが、薬を飲めば副作用が必ずでるわけではありません。特異反応は、ごく一部の人にだけみられるだけですし、一般的副作用も、多くは、薬を増量することによってはじめて出現する副作用です。減量によって消失することがほとんどです。少量の抗てんかん薬で発作がコントロールされれば、副作用とは無縁に何年も服薬を継続することができます。
 ただ、残念ながら、抗てんかん薬による発作抑制率はせいぜい8割です。残りの2割の方では薬物治療による完全な発作コントロールが期待できません。そのような難治例では、薬の副作用と治療効果の狭間で悩むことになります。
 そのような難治てんかんに対する対応に関して、2つの考え方があります。一つは、どうせ効かないのであれば、副作用もあるので、一切薬を服用しないという行き方です。まれにですが、実際、そのように望まれる患者さんや保護者の方がみえます。発作を繰り返しても何とか生活していこうというわけですが、こういう方の場合、発作頻度も多いのでうまくいかないことがほとんどだと思います(病院に来られなくなる方もみえ、その場合、こちらは知らないだけで、うまく発作をやり過ごしてみえる方がみえるのかもしれませんが)。
 実際には、発作を完全にコントロールできなくても、多かれ少なかれ、薬は発作をある程度は抑制します。まったく効いていないということは、まず、ありません。そこで、完全に発作を止めることはできなくとも、ある程度の薬効を期待して、とりあえず、飲んでおこう、というのがもう一つのやり方です。
 おそらく、ほとんどの場合、後者が選択されていると思います。
 しかし、そうした状況では、さまざまな要因に目配りする必要があります。とくに、どこまで副作用が許容されるかの判断が鍵となります。
 たとえば、ある程度副作用には目をつぶって、発作抑制を優先することがあります。たとえば、重積傾向のあるてんかん発作が頻発し、そのたびに病院受診、入院を余儀なくされ、ときとして、生命まで脅かされかねない場合です。ドラベ症候群(重症乳児ミオクロニーてんかん)などの小児の破滅型(破局型)てんかんではそうした状況が起こりえます。その場合には、ある程度の副作用には目をつぶらざるをえなくなります。
 そういった極端な場合は、むしろ、わかりやすくていいのですが、通常は、もっと微妙な判断が要求されます。いくら難治発作があっても、薬の副作用で日常生活が大きくかき乱され、成長が阻害されるようなことは、普通、避けなければなりません。発作はコントロールされたが薬の副作用で一日中眠ってばかりいるというのでは、治療の名に値しません。しかし、一方で、発作も、当然のことながら、日常生活や成長に多大な影響を及ぼします。結局、発作と副作用という性質の異なるものを両睨みすることになります。性質の異なるものをきちんと比較することなどできませんから、正解はありません。正解のない中で、患者さんや保護者の方とご相談しながら、治療方針を立てるしかないのです。
 しかし、おそらくは、ある程度の発作は容認し、目立った副作用がない状態を保つようにしていくことが、実際の臨床の場面では、多いだろうと思います。その場合でも、新しい薬、新しい治療法はつねに視野に入れて、よりよい発作コントロール、出来得れば発作消失を、当然、目指すべきです。実際、発作が止まったり、止まらないまでも激減すると、日中の覚醒度が上がり、物事に興味津々となる患者さんはまれではありません。発作そのものだけではなく、発作頻発がいかに患者さんの生活を阻害しているかがわかります。

表1 抗てんかん薬の代表的副作用

抗てんかん薬
(略語)
商品名一般的副作用
(長期投与に伴う副作用)
特異体質による副作用けいれん誘発胎児への影響
大奇形発現率
フェノバルビタール
(PB)
フェノバール
ルミナール
ワコビタール坐剤
ルピアール坐剤
鎮静、集中力低下、気分変動(うつ)易刺激性
多動(小児)、行動異常、知的低下、譫妄(老人)、
頭痛、骨粗鬆症、デュピュイトラン拘縮、手掌線維腫症
五十肩、葉酸欠乏(巨赤芽球性貧血)、うつ病悪化
皮疹、肝障害、汎血球減少、血小板減少、SJS、TEN、DIHS

欠神発作
(過量投与時)
心奇形
認知力低下(男児)
5.5~7.4%
プリミドン
(PRM)
マイソリン
プリムロン
眠気、眩暈、知的低下、ふらつき、うつ病悪化
(骨粗鬆症)
上記欠神発作不明
フェニトイン
(PHT)
アレビアチン
ヒダントール
ジフェニールヒダントイン
複視、眼振、めまい、嘔気、振戦、ふらつき、
心伝導系障害、固定姿勢保持困難(asterixis 拍動性振戦)
(多毛、葉酸欠乏(巨赤芽球性貧血)小脳障害、結合組織増生(歯肉増殖、顔貌変形)、ニキビ、骨粗鬆症、
インシュリン分泌抑制(非ケトン性高血糖)
皮疹、肝障害、汎血球減少、
血小板減少、SJS、TEN、DIHS

強直間代発作、解体発作
(血中濃度>30μg/ml)
まれにミオクロニー発作、
欠神発作
2.4~6.7%
カルバマゼピン
(CBZ)
テグレトール
レキシン
眠気、複視、眼振、眩暈、嘔気、頭痛、ふらつき、 認知機能低下、聴覚異常、低ナトリウム血症、 刺激伝導系障害
(骨粗鬆症)
皮疹、汎血球減少、血小板減少、 肝機能障害、SJS、TEN、DIHSミオクロニー発作
欠神発作、強直発作
脱力発作
  二分脊椎(多剤併用時) 2.6~5.6%
ゾニサミド
(ZNS)
エクセグランめまい、吐気、眠気、協調運動障害、食欲不振、
発汗減少、認知力低下、無気力、うつ、躁、幻覚
幻覚、皮膚掻痒感
(尿路結石)
SJS、TEN、DIHS< 3%
バルプロ酸
(VPA)
デパケン、エピレナート
バレリン、ハイセレニン
セレニカR
吐気、嘔吐、眠気、高アンモニア血症、血小板減少、
低ナトリウム血症、カルニチン欠乏
(体重増加、脱毛、骨粗鬆症、 (老齢者:歩行障害、認知症、パーキンソン症候群))
致死性肝障害、膵炎、脳症、DIHS複雑部分発作、
(陰性ミオクローヌス
(非てんかん性))
二分脊椎 IQ低下、自閉症 4.7~13.8%
ガバペンチン
(GBP)
ガバペンめまい、ふらつき、眠気、頭痛、複視
悪心、倦怠感、 ミオクローヌス、体重増加
SJS
急性腎不全
欠神発作 ミオクロニー発作 強直発作、脱力発作< 3%
エトサクシミド
(ESM)
ザロンチン
エピレオプチマル
悪心、嘔吐、胃痛、下痢、
傾眠、興奮、しゃっくり、行動変化、ふらつき (頭痛、精神症状、うつ、幻覚)
再生不良性貧血、血小板減少、 無顆粒球症、皮疹、SJS SLE強直間代発作誘発不明
ラモトリギン
(LTG)
ラミクタールめまい、嘔気、複視、ふらつき、嘔吐、頭痛、脱力、
興奮、眠気、振戦、消化不良
皮疹、SJS、 TEN、 DIHS、肝障害
汎血球減少
欠神発作の悪化1.9-4.6%
トピラマート
(TPM)
トピナ食欲不振、眠気、めまい、認知機能低下
言語流暢性障害、異常感覚、発汗減少、
代謝性アシドーシス、うつ
(腎結石、体重減少)
まれ2.4-7.7%
レベチラセタム
(LEV)
イーケプラ眠気、めまい、無気力 行動異常、不機嫌、うつ、不安まれ 0.7-2.4%
ペランパネル (PER)フィコンパめまい、眠気、頭痛、倦怠感、ふらつき、目のかすみ異常行動、攻撃性、敵意 不明
ビガバトリン (VGBサブリル鎮静作用、倦怠感、めまい、ふらつき 過敏、行動変化、精神症状、うつ  視野狭窄、脳症欠神発作、ミオクロニー発作の悪化(特発全般てんかん)不明
ラコサミド (LCM)ビムパットめまい、眠気、頭痛、震え、吐き気、目のかすみ、複視 肝機能障害SJS、 TEN、 DIHS、無顆粒球症 徐脈、房室ブロック 不明
ルフィナミド (RFN)イノベロン眠気、めまい、倦怠感、嘔吐、食欲低下DIHS、SJS、攻撃性
QT間隔の短縮
てんかん重積状態不明
スチルペントール (STP)ディアコミット傾眠、不眠、食欲減退、ふらつき注意欠如・多動症、多弁、攻撃性
睡眠障害、QT延長
 不明
ジアゼパム
(DZP)
セルシン
ソナコン
ホリゾン
ダイアップ坐剤
眠気、異常行動、唾液分泌過剰
筋緊張低下、呼吸抑制・血圧低下(静脈投与)
ふらつき
まれ

強直発作2.4~7.7%
ニトラゼパム
(NZP)
ペンザリン
ネルボン
眠気、異常行動、唾液分泌過剰
筋緊張低下、呼吸抑制・血圧低下、ふらつき
まれ

強直発作 
クロナゼパム
(CZP)
リボトリール
ランドセン
眠気、異常行動、唾液分泌過剰
筋緊張低下、呼吸抑制・血圧低下、ふらつき
まれ

強直発作 
クロバザム
(CLB)
マイスタン眠気、異常行動、唾液分泌過剰
筋緊張低下、呼吸抑制・血圧低下、ふらつき
まれ

強直発作不明
スルチアム
(ST)
オスポロット眠気、食欲不振、しびれ
頭重、運動失調、過呼吸、腎結石
発疹、白血球減少、呼吸促迫
知覚障害
 
アセタゾラム
(AZM)
ダイアモックス多尿、口渇、脱力、眩暈
しびれ、頭痛、食欲不振、腎結石
電解質異常
 
臭化カリウム
(KBr)
臭化カリウム痤瘡、発疹、眠気、ふらつき
脱力、活動低下、食欲低下、下痢
頭痛、幻覚、昏迷、昏睡
 

SJS :Stevens-Johnson症候群(Stevens-Johnson Syndrome)、
TEN :中毒性表皮壊死症(Toxic epidermal necrosis) 、
DIHS:薬剤性過敏症症候群 (Drug-induced hypersensitivity syndrome)              
– :報告がないだけで、本当にないのかどうかはわからない

副作用の種類

 副作用は、服用期間、服用量など、さまざまな側面を指標として分類されています。そうした分類で薬の副作用を全てカバーできるという保証はありませんが、副作用を整理して理解するのには便利なので、概略をお示しします。
. 急性副作用と慢性副作用
 副作用は治療開始後すぐに発現する急性副作用と、年単位で徐々に出現する慢性副作用があります。急性副作用は比較的気づきやすいですが、慢性副作用は見逃されがちです。薬を開始してから数年たつと、薬が日常生活に溶け込み、症状が薬と結びつきにくくなるからです。おかしいと思ったら何でもいいですから担当医に相談してくださいと最初に申しましたが、それは、主として、この慢性副作用を見つけだすためです。まれですが、思いもかけない副作用が出現していることがあります。
b. 一般的副作用と個別的副作用
 副作用には、ある一定の条件下で誰にでも出現する一般的副作用と特定の人にだけ現れる個別的副作用があります。
1) 一般的副作用
 一般的副作用は、通常、服用量(血中濃度)と関連します。
 抗てんかん薬は何らかの形で神経細胞の活動を抑制したり変容させたりします。このため、抗てんかん作用に加え、飛び火(spill over)効果として抗てんかん薬が中枢神経機能を歪めます。眠気、ふらつき、行動異常、性格変化などがその結果として現れる代表的症状です。これらは典型的な用量依存性副作用で、抗てんかん薬の多くに共通してみられ、一般的副作用の代表例です。薬を増やすと出やすくなるのですが、とくに、血中濃度が参考域上限を超えると出現することが多く、血中濃度を定期的に測定するのは、このことを確認するのが目的の一つになっています。ただし、神経症状以外の副作用は、血中濃度が参考域内でも出現することがあります。たとえば、バルプロ酸による食欲増進、体重増加、フェニトインによる歯肉増殖といった副作用です。
2) 個別的副作用
 個別的副作用は服薬者の遺伝的素因に関連して出現するものと推定されていますが、多くの場合、正確な発症機序はわかりません。一般的副作用とは違って、服用量とは無関係に現れることがほとんどです。
 典型的なものが薬疹です。薬疹とは薬(とその代謝産物)が原因となって起こる皮膚反応のことです。薬を飲み始めてしばらくして(多くは1-2週後)から発疹が皮膚にみられるようになります。多くの場合、発疹は赤みを帯びてやや盛り上がった数ミリ径の紅斑性丘疹(浮腫性紅斑)ですが、それ以外にも蕁麻疹、固定薬疹、光線過敏、紅皮症など、さまざまな種類の発疹が認められることがあります。これならば薬疹だ、と言えるような発疹はないといってもいいかもしれません。ですから、新たな薬を飲み始めて皮膚に何かおかしな発疹がでてきたら、とりあえず、薬疹を疑い、すぐに薬を中止し、なるべく早く受診してください(抗てんかん薬を急にやめると、それだけでリバウンド(反跳)効果により発作が誘発される可能性があるため、急激な断薬は推奨されませんが、薬疹の多くは飲み始めて1カ月以内に起きることが多いので、この反跳現象を心配する必要はありません。しかし、もし、新しい薬に加えて他の抗てんかん薬を飲んでみえたのであれば、古い薬は止めないで下さい)。本当に薬が犯人なのか確認するには、薬疹が消えて、ほとぼりが冷めた頃に、もう一度、薬を飲んでみるのが一番手っ取り早いのですが、万が一、あとで述べるような重症薬疹が発症してしまっても困ります。そこで、一部の皮膚に薬品を接触させて(薬を染みこませた布を張る貼布試験(パッチテスト)、針でひっかいた皮膚に薬を塗りつけるスクラッチテスト(プリックテスト)、皮膚に薬液を注射する皮内テストなどがあります)薬と発疹の間に関連があるかどうか判定する方法もあります。薬疹の原因の一部は当該薬剤をあらかじめ認識しているリンパ球(T細胞)が暴走して引き起こされるⅣ型アレルギー反応あり、薬剤リンパ球刺激試験(DLST)でその原因を調べることもあります。しかし、いずれの方法でも因果関係をはっきりさせることができないこともあります(あとで述べる、重篤な薬疹の場合でもDLSTで薬との因果関係をはっきりさせることができるのは30%前後です)。
 通常、薬疹は皮膚だけにあらわれます。しかし、きわめてまれに、アレルギー反応が「凶暴化」して病変が粘膜、目、内臓にまで広がり、発熱などの全身症状が出現することがあります。これを重症薬疹といいます。
 代表的な重症薬疹としては、まずは、スティーブンス・ジョンソン症候群(Stevens-Johnson Syndrome(SJS)、中毒性表皮壊死症(Toxic epidermal necrosis TEN)があります。薬を飲み始めて2週間前後に発疹が出始め、やがて、皮膚の表面(表皮)が腐ったようになり、中心に水ぶくれができてきます。発疹の周囲も紫色になり、全体としてただれてきます。同様の病変は口唇、口腔、外陰部などの粘膜領域にまで広がり、水疱、血性痂皮(かさぶた)が形成されます。さらに、目もやられて結膜、角膜にびらんが生じ、目が真っ赤になります。さらに、病変は全身に広がり、気道粘膜や消化管粘膜まで侵され、咽頭痛、呼吸器症状、消化器症状がみられるようになります。こうなると、生命に危険が及びます。鎮痛剤、高尿酸血症治療薬などさまざまな薬で起きますが、抗てんかん薬ではカルバマゼピン、フェニトイン、フェノバルビタール、ゾニサミド、ラミクタール、エトサクシミド、ガバペンチン、ルフィナミドでの報告がなされています。日本では、皮膚粘膜病変が全身の10%未満のものをスティーブンス・ジョンソン症候群(Stevens-Johnson Syndrome(SJS))、10%を超えるものを中毒性表皮壊死症(Toxic epidermal necrosis TEN)と呼んでいます(海外では10%未満をSJS、 10%から30%をSJSとTENのオーバラップ(移行型)、30%以上をTENと定義しています)。 いずれも、特異な体質の人(具体的には特定のHLA(白血球の血液型)を持っている人)においてリンパ球(T細胞、NK細胞)が特定の薬(PHT(HLA-B*15:02)、CBZ(HLA-B*15:11)、CBZ、 LTG(HLA-A*24:02))に対し異常反応を示し、炎症誘導物質を過剰に分泌、角質を作る角質細胞などを死に追いやるために、こうした症状がもたらされると考えられています。治療としては、即座に薬を止めることはもちろんですが、さらに、炎症を抑えるためにステロイドやガンマグロブリンを投与します。しかし、それで追いつかない場合は炎症物質の濃度を薄めるために血液の液性成分、血漿を汲み出して他人の血漿を注ぎ込む、血漿交換療法も行います。ところが、それだけ頑張ってもSJSとTENの致死率はそれぞれ3~5%、20~30%と高率です。しかし、最初に述べたように、この疾患はきわめてまれです。100万人に1-7人の発症率と推定されています。私自身、40年近くてんかんの診療に関わり、かなりの数の患者さんに抗てんかん薬を処方してきていますが、幸いなことに、まだ一度も遭遇したことはありません。これらの疾患群を過度に恐れて、抗てんかん薬の服用を躊躇するのも考えものです。
 もう一つ、重篤な薬疹として薬剤性過敏症症候群 (Drug-induced hypersensitivity syndrome (DIHS)) があります。SJSやTENに比べると薬を飲み始めてから薬疹の出現までの期間はやや長く、平均4週間(2-8週)です。薬疹が出始めたなと思っていると、紅斑が体表面積の半分以上にあっという間に広がり、斑状に融合し、最終的には、皮膚が真っ赤になって紅皮症と呼ばれる状態になります。この発疹は、薬を止めても症状がすぐにはおさまりません。服薬中止後2週間以上発疹が持続し、紫色に変色していくこともあります。発疹がSJSやTENのように粘膜にできることもありますが、しかし、せいぜい半数前後です。皮疹の主たる原因は真皮内への炎症細胞の浸潤と浮腫です。皮疹に加え、9割で発熱がみられ、8割近くで顔が腫れ上がり、約半数でリンパ節も腫れます。血液検査は、アレルギー反応を指し示す好酸球の増加が9割以上の患者さんで認められ、さらに、7割近くで変形したリンパ球(異型リンパ球)がみられます。肝障害も8割近くで起こり、腎障害、肺病変も3-4割に認められます。しかし、検査所見でもっとも特徴的なのは赤ちゃんの突発性発疹症の原因となるヒトヘルペスウイルス 6(human herpesvirus 6 : HHV-6)の核酸(DNA)が血清や血球(単核球)に検出され、HHV-6に対する血清抗体価が上昇することです。これは、HHV-6による感染が全身に広がっていることを示す徴候です。しかし、このウイルスは外からではなく内側から「再感染」しています。他のヘルペスウイルス同様、HHV-6も突発性発疹症を引き起こしたあとも体外に排泄されず、人の体内(リンパ球や肝細胞など)に90%近くの人でじっと息を凝らしたまま住み続けます(潜行感染)。どうやら、DIHSでは、その潜伏していたHHV-6が薬への異常反応をきっかけとして息を吹き返すようです。薬を止めても病状が進むのはウイルスの再活性化が止まらないためと推測されています。薬への異常反応にはSJSやTENと同じように素因が関係していて、たとえば、カルバマゼピンですとHLA-A*31:01という白血球の型が関与していると考えられています。カルバマゼピン以外に、フェノバルビタール、フェニトイン、バルプロ酸、ラモトリギン、ゾニサミド、ルフィナミドでもDIHSが起こることが知られています。頻度はSJSやTENに比べ1桁高く、10万人に1人ぐらいです。多くの患者さんは、薬を止めると、時間はかかりますが、自然に回復していきます。しかし、じん臓や肺などの内臓障害が認められればステロイドや免疫抑制剤で治療する必要が出てきます。そして、急性肝不全、多臓器不全、劇症型心筋炎、血球貪食症候群などの合併により死亡に至ることもあります。死亡率は5-10%に達します。さらに、DIHDが軽快したあと、甲状腺炎などの自己免疫疾患を発症する方もみえます。
 薬疹以外に、無顆粒球症などの骨髄抑制や肝機能障害も有効血中濃度内で服用量とは無関係にごく限られた一部の方にみられることがあります。この類の副作用は外から見ただけではわかりませんし、初期には、自覚症状もありません。血液検査で発見するしかありません。このため、抗てんかん薬の服用を開始すると、どうしても、定期的な血液検査が必要になります。
 また、ルフィナミド、スチルペントールなどでは心臓の電気活動に不調をきたすことがあるため、こうした薬では心電図によるモニタリングも欠かせません。

薬物相互作用

 一つの薬を服用しているときには何ともなかったのに、そこにもう一種類、新たな薬を追加すると、思わぬ副作用が出現したり、発作がむしろ悪化したりすることがあります。その原因として新たな薬がもとの薬に影響を及ぼしたためということがあります。
 抗てんかん薬の中には他の抗てんかん薬の代謝を活性化したり、逆に、抑制したりすることがあります。このため、元の薬の血液中や脳内の濃度が変動します。また、新しい薬が元の薬のタンパク結合に影響を及ぼし、非結合(遊離)型の比率を上げたり、下げたりすることもあります(遊離型が脳内に自由に出入りして抗てんかん薬作用を発揮するので、たとえば、遊離型が増えれば副作用が出やすくなりますし、逆に、減ると発作が起こりやすくなります)。このように、新たに追加した抗てんかん薬が以前から服用していた抗てんかん薬の副作用を際だたせたり、薬の作用を阻害して発作を悪化させたりすることがあります。このため、新たに抗てんかん薬が追加する場合、薬の相互作用による副作用や発作の増加の可能性を念頭に入れておく必要があります。ただし、薬の相互作用は複雑で、あらかじめどのような影響を及ぼすのか予測するのは困難なことも少なくありません。なるべく複数の薬の併用(多剤併用)を避け、一つの薬のできる限り治療を行ってその薬効を評価しようと努めるのは、ひとつは、このためです。

追加薬元の抗てんかん薬の血中濃度
VPAPBCBZPHTZNSCZPCLBESMAZMGBPTPMLTGLEVRFNSTPVGBPERLCM
VPA ↑↑ab  ↑↑↑↑    
PB →↓ ↓↓↓↓↓↓↓↓  
CBZ↓↓↑↓→ ↓↓ ↓↓↓↓↓↓↓↓
PHT↓↓↑↓↓↓ ↓↓↓↓ ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ZNS c            
CZP             
CLB↑↑d↑↑           
ESM            
AZM                
GBP       
TPM           
LTG       
LEV          
RFN            
STP↑↑↑↑  ↑↑           
VGB              
PER        
LCM          
   血中濃度:↑上昇、 ↑↑著増、 ↓減少、 ↓↓著減、 →不変 
;著増、著減の場合、元の抗てんかん薬の減量、増量を考慮
a : CBZの濃度は下がるが、CBZの活性代謝物(CBZ-epoxide)は増加してCBZの薬効は強まるので増量は不要。
b : CBZの濃度は下がるが、遊離CBZ濃度は上昇してCBZの薬効は強まるので増量は不要。
c : CBZの活性代謝物(CBZ-epoxide)は増加。
VPA :バルプロ酸, PB:フェノバルビタール、CBZ:カルバマゼピン、PHT:フェニトイン、ZNS:ゾニサミド、CZP:クロナゼパム、ESM:エトサクシミド、AZM:アセタゾラム、GBP:ガバペンチン、TPM:トピラマート、LTG:ラモトリギン、LEV:レベチラセタム、RFN:ルフィナミド、
STP:スチルペントール、VGB:ビガバトリン、PER:ペランパネル
  ( 日本神経学会 (監修) てんかん診療ガイドライン2018 12章 薬物濃度モニター 一部改変)

疾患関連性副作用

 個別的副作用の特殊型として、薬が特定疾患の発症の引き金を引いたり、悪化させたりすることがあります。抗てんかん薬による重症筋無力症の悪化などがその代表例です。しかし、抗てんかん薬において、とくに注意すべきは急性間欠性ポルフィリアです。

図1 15歳女性 間欠性ポルフィリア3歳時に強直間代発作があり、脳波で全般性棘徐波がみられたためバルプロ酸(VPA)を投与された。その後、約1か月に1回、腹痛、便秘、嘔気、嘔吐、食欲低下、異常行動がみられるようになった。肝機能障害もみられたためVPAに代わってフェニトイン(PHT)が投与されたが、強直間代発作がみられたため、カルバマゼピン(CBZ)が追加された。その後も周期的に腹部症状がみられ、さらに、筋力低下、関節痛も出現、腱反射が減弱した。尿中アミノレブリン酸(δ-ALA)、ポリフォビリノーゲン(PBG)などポルフィリン関連物質が高値(破線が正常値上限)であることが判明し、間欠性ポルフィリアと診断された。ヘマチンを静注するとともに、PHT、CBZを中止、代わりにクロバザム(CZP)を開始したところてんかん発作も消失、周期的な腹部症状、神経症状もみられなくなり、δ-ALA、PBGなども正常化した (Suzuki A, Aso K et al (1993)) 。

 急性間欠性ポリフィリア(肝性ポリフィリア)は赤血球のヘモグロビンなどを構成するヘム(ポルフィリンと2価鉄分子の錯体)を合成する際に必要なハイドロキシメチルビレン合成酵素が生まれつき不足している常染色体優性遺伝疾患です。普通は何の症状も現れませんが酵素活性が50%以下になるとδ-アミノレブリン酸(ALA)、尿中ポルホビリノゲン(PBG)などのヘムの前駆体が蓄積し、さまざまな症状がもたらされます。酵素活性を50%以下に低下させるものとして酵素誘導作用のあるフェノバルビタール、フェニトインなどの抗てんかん薬、向精神薬、アルコール摂取、ホルモン変動、カロリー摂取不足、ストレス、感染などがあります。20世紀に入って、抗てんかん薬、向精神薬が普及したためこの病気の症状が顕在化するようになったと考えられていて、「20世紀病」とも呼ばれています。
 症状としては、腹痛、嘔吐、便秘などの消化器症状(ギュンターの三徴)、末梢神経障害による四肢のしびれ、脱力および筋肉痛などの神経症状、不安、不眠、意識障害などの精神症状、高血圧、頻脈などの循環器症状などが周期的にみられます。ただし、症状が全て揃わないことも少なくありません。
 この病気では、たとえば、腹痛などは、診察しても、あまり所見がなく、レントゲン撮影でも異常が認められません。このため、仮病じゃないかと疑われてしまうことがあります。この病気を念頭に置かないと正確な診断にたどり着けない恐れがあるのです。このため、抗てんかん薬や向精神薬を服用している患者さんが急性腹症や急性多発性末梢神経障害の症状を呈している場合には、まず、この疾患を疑うべきとされています。診断がつけば、抗てんかん薬の変更などの対策によって、症状の出現をおさえることができます。まれな疾患ですが、医原性疾患であり、診断が遅れると呼吸麻痺で死亡することさえあるので、つねに頭の片隅に入れておくべきです。日本で使用可能な抗てんかん薬はほとんどがこの疾患の発病を誘発させる可能性があります。しかし、ニトラゼパムを除いたベンゾジアセピン系抗てんかん薬では症状が顕現しない場合があるので、この疾患にてんかんが合併している場合、とりあえずは、そうした薬剤を試すことになります。しかし、絶対的に安全な抗てんかん薬というと臭化カリウム(ブロム)しかありません。

発作誘発

 抗てんかん薬は、てんかん発作を抑制する薬ですが、逆に、発作を誘発したり、悪化させたりすることがあります。
 なぜそんな現象が起きるのか、機序はよくわかっていません。しかし、現象面から2つに分けて考えることができます (Perruca et al (1998) Antiepileptic drugs as a cause of worsening seizures. Epilepsia 39 : 5-17)。
 一つは、特定の薬剤が特定のてんかん発作を増加させたり、特定のてんかん症候群を悪化させたりするものです。
 代表的なものが、クロナゼパムなどのベンゾジアセピン系抗てんかん薬による強直発作の誘発です。この発作誘発は、日中には気づかれなくても、睡眠中、開眼し呼吸が乱れるなどの軽度の体軸性強直発作が頻発していることがあります。レノックス・ガストー症候群などの症候性全般てんかんによくみられ、発作に伴い、脳波で全般性律動性棘波が認められます。
 一方、カルバマゼピンは特発全般てんかんにおいて欠神発作、ミオクロニー発作を誘発したり、特発性部分てんかんの発作を増加させたりすることがあります。カルバマゼピンほどではありませんが、フェニトインも欠神発作やミオクロニー発作をまれに誘発することが知られています。ミオクロニー発作誘発作用はガバペンチンでも報告されています。
 もう一つ、抗てんかん薬の過量投与でも発作が誘発されることがあります。たとえば、高濃度フェニトインは発作頻度を増加させることが報告されています。ただし、実際にはまれな現象です。
 このように抗てんかん薬で「逆説的に」発作が誘発されることがあります。しかし、抗てんかん薬に関連する発作誘発でもっとも注意すべきは、前にも申しましたように、フェノバルビタールやカルバマゼピン、ベンゾジアセピン系薬剤を急にやめてしまうことです。こうした離脱性発作は断酒時にも起こることが知られています。薬やアルコールに依然する体質になっているときに起こる現象と考えられています。
 ちなみに、てんかん発作を誘発したり、悪化させたりする薬は、抗てんかん薬以外にもたくさんあります。代表的なものを表2に挙げておきますが、過量投与も含めると相当数の薬によって痙攣が誘発されることが知られていますので、ここにお示しした薬はそのほんの一部にすぎないことをご留意ください。逆に、表の薬のなかには、発作を増加させる可能性はあるものの、きちんと発作がコントロールされている方では、臨床上問題のない薬もあります。また、リドカインのように、てんかん発作を止めるために使われる薬さえあります。さらに、因果関係ははっきりしないものの、副作用として記載されているものもあります。したがって、ここにあげた薬がてんかんの方全員に使えないというわけではありません。必要もないのに漫然と服用すべきではありませんが、どうしても必要な場合、注意しながら服用していただくこともあります。

表2 てんかん発作のある方が注意すべき薬

カテゴリー薬剤名商品名区分対象(てんかん発作に対する推定作用および現象)
躁うつ病薬マプロチリン塩酸塩錠ルジオミール禁忌てんかん等の痙攣性疾患又は既往歴のある患者(てんかん発作誘発)
リチウムリーマス禁忌てんかん等の脳波異常のある患者(脳波異常を増悪させることがある)
イミプラミンイミドール
トフラニール
慎重投与てんかん等の痙攣性疾患又は既往歴(痙攣誘発)
塩酸パロキセチン
水和剤
パキシル慎重投与てんかんの既往歴(てんかん発作誘発)
マレイン酸
フルボキサミン
ルボックス
デブロメール
慎重投与てんかん等の痙攣性疾患又はこれらの既往歴(てんかん発作誘発)
精神刺激薬ベモリン*ベタナミン禁忌てんかん等の痙攣性疾患(痙攣閾値低下)
抗精神病薬クロルプロマジンウィンタミン
コントミン
慎重投与てんかん等の痙攣性疾患又は既往歴(痙攣閾値低下)
チオリダジンメレリル慎重投与てんかん等の痙攣性疾患又は既往歴(痙攣閾値低下)
筋弛緩薬バクロフェンギャバロン、
リオレサール
慎重投与てんかん及びその既往歴(症状誘発のおそれ)
麻薬性鎮痛薬塩酸モルヒネMSコンチン
アンペック
禁忌痙攣状態(てんかん重積症)(脊髄刺激効果)
塩酸オキシコドンオキシコンチン禁忌痙攣状態(てんかん重積症)(脊髄刺激効果)
フェンタニルデュロテップ副作用間代性もしくは大発作型痙攣
塩酸コカイン塩酸コカイン副作用振戦・痙攣等の中毒症状
局所麻酔薬塩酸リドカインキシロカイン副作用痙攣
麻薬性鎮咳剤リン酸コデインリン酸コデイン禁忌痙攣状態(てんかん重積症(脊髄刺激効果))
リン酸ジヒドロ
コデイン
リン酸ジヒドロコデイン
セキコデシロップ(合剤)
禁忌痙攣状態(てんかん重積症(脊髄刺激効果))
消化管機能
促進薬
塩化ベタネコールベサコリン禁忌てんかん(発作誘発のおそれ←副交感神経刺激)
ナパジシル酸
アクラトニウム
アボビス禁忌てんかん(痙攣を増強←副交感神経刺激)
口腔内乾燥
改善薬
セビメリンサリグレン
エボザック
禁忌てんかん(発作のおそれ ← 副交感神経刺激)
気管支
拡張薬
アミノフィリンネオフィリン
アルビナ座薬
慎重投与てんかん(中枢刺激作用により発作)
テオフィリンテオドール
テオロング
スロービッド
ユニフィル
慎重投与てんかん(中枢刺激作用によって発作)
カルバペネム系抗生剤イミペネム・
シラスタチン
チエナム禁忌バルプロ酸Na投与中(バルプロ酸の血中濃度低下してんかん発作の再発)
慎重投与てんかんの既往歴(痙攣、意識障害等の中枢神経症状が起こりやすい)
パニペネム・
ベタミプロン
カルベニン禁忌バルプロ酸Na投与中(バルプロ酸の血中濃度低下してんかん発作の再発)
メロペネム
三水和物
メロペン禁忌バルプロ酸Na投与中(バルプロ酸の血中濃度低下してんかん発作の再発)
慎重投与てんかんの既往歴(痙攣、意識障害等の中枢神経症状が起こりやすい)
キノロン系
抗菌薬
ノルフロキサシン
エノキサシン
塩酸ロメフロキシン
レブロキサシン
トシル酸トスフロキサシンなど
バクシダール
フルマーク
バレオン
ロメバクト
クラビット
オゼックス
トスキサシンなど
併用禁忌
かつ/または
併用注意
痙攣(ニューキノロン系抗菌薬のGABA受容体結合阻害作用が
非ステロイド系鎮痛解熱剤NSAIDsによって増強)
抗癌剤ビンクリスチンオンコビン副作用痙攣
メソトレキセートメソトレキセート副作用痙攣
抗ヒスタミン薬塩酸シプロヘプタジンペリアクチン副作用痙攣(抗コリン作用)
フマル酸
クレマスチン
タベジール
テルギンG
慎重投与てんかん等の痙攣性疾患又はこれらの既往歴(痙攣閾値低下あり)
マレイン酸クロル
フェニラミン
アレルギン
ポララミン
副作用痙攣
フマル酸ケトチフェンザジテン
ジキリオン
慎重投与てんかん等の痙攣性疾患又は既往歴(痙攣閾値低下あり)
ロラタジンクラリチン副作用てんかん(てんかん既往患者に投与後に発作発現の報告)
ロイコトリエン
拮抗薬
ブランルカスト
水和剤
オノン副作用痙攣
モンテルカスト
ナトリウム
キプレス
シングレア
副作用痙攣

*ナルコレプシーにも有効、 NSAIDs:非ステロイド系鎮痛解熱剤

強制正常化による精神症状、食欲低下

 難治のてんかん発作がようやくコントロールされ、脳波が正常化したと思ったら、異様に怒りっぽくなったり、妄想を抱くようになったり、手のつけられない異常行動を示したりすることがたまにあります。強制正常化(forced normalization)と呼ばれる現象です。てんかん発作があった時の方がまだましだったと言えるようなひどい症状を呈すこともあります。このため、発作コントロールと精神症状抑制といずれを優先すべきか選択に悩まされることもあります。
 強制正常化による精神症状の原因はよく分かっていません。てんかん焦点の周囲の健全な神経組織に過度の抑制がかかったために精神症状が出てくるのかもしれないという説明がなされたこともありましたが、本当にそうかどうか、分かっていません。この現象を最初に報告したLandolt(1953)は覚醒中枢の過剰な働きによって脳波の正常化と精神症状の発現をきたすのかもしれないという仮説を立てましたが、これも、証明されていません。そうではなく、異常放電が大脳皮質ではなく脳幹に向かうのだ、いやいや、これは海馬・扁桃核の発作重積状態なのだ、とその後もいろんな説が出されましたが、納得のいく説明はまだありません。
 さらに、まれにですが、自閉症を伴う難治てんかんの子で、頻発発作がコントロールされた途端、拒食になることがあります。てんかん発作が止まったと思ったら、食欲がなくなるのか、口から食べることを拒否するようになるのです。何らかの抗てんかん薬を加えて発作がコントロールされるので、最初は、当然、抗てんかん薬による副作用として食欲が低下したようにみます。ところが、薬を止めて、他の薬を加えても、発作がコントロールされると、またもや、食欲がなくなるということが繰り返されます。発作コントロールか食欲かという難しい二者択一を迫られる現象で、うまい解決法はなかなかみつかりません。これも、理由はよく分かっていません。ただ、てんかん発作と食欲の間に関係があることは昔から知られていました。神経性無食欲症(anorexia nervosa)やうつ病の食欲不振に対し、人為的にてんかん発作を起こさせる電気けいれん療法(Electroconvulsive therapy, ECT)が効くことが報告されてきています。


原因不明の知的障害、自閉症、筋緊張低下、難治性てんかんのみられる男児一歳前からミオクロニー発作が頻発したが、バルプロ酸(VPA)で発作が減少した。しかし、急に食事をとらなくなり、点滴、濃厚流動食で何とか水分、栄養を保たざるをえない状態となった。このため、一旦、VPAを中止した。ところが、その後、非定型欠神が頻発するようになり、VPA、クロバザム(CZP)ではコントロールできず、エトサクシミド(ESM)を使用したところ、ようやく発作はおさまってきた。ところが、再び、食欲が低下し、ESMを中止した。代わりに、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の注射を行ったところ非定型欠神は消失したが、再び、食欲が低下、経鼻経管栄養を要するようになった。その後、再びミオクロニー発作が出現するとともに食欲が徐々に戻り、濃厚流動食の経口摂取で何とか栄養が賄えるようになった。

胎児催奇作用

 フェノバルビタール、フェニトイン、バルプロ酸、カルバマゼピン、ベンゾジアセピンなどを服用している女性から生まれてくる子の奇形発生率は通常よりもやや高いことが知られています。奇形としては口唇口蓋裂、先天性心奇形、神経管閉鎖不全症候群などがあります。さらに顔貌異常、指のわずかな異常がみられることもあります。ただし、顔貌異常は成長とともに目立たなくなります。

脳や脊髄の基となる神経管は胎児期、神経板という平板な細胞層が徐々に陥没して両端が融合することによって形成される。神経管の一部(多くは最後に閉じる末端部)がうまく融合しないと脊髄を包む腰の骨や脳を被う後頭骨が開いたままになり、脊髄や脳そのものの形成もうまくいかず、脊髄や脳が外に露出してしまう二分脊髄や脳瘤が起きる。

 いずれにしても、抗てんかん薬を飲んでいる女性から生まれる子が皆、奇形を伴っているというわけではありません。このことを、まずは、しっかり頭に入れておいて下さい。発生率は最大でも数パーセントです。抗てんかん薬を飲んでいない人からも奇形を持った赤ちゃんが生まれてくることがありますが、それに比べて、やや高いぐらいだと考えて下さい。抗てんかん薬を飲んでいると子供が産めないというわけでは決してありません。
 抗てんかん薬の催奇作用の機序はよくわかっていません。薬が直接、胎児の脳の発達に影響を及ぼすのではないかという推測もなされていますが、確証はありません。数ある抗てんかん薬のうち、どれがいちばん安全かという問いに対しても、明確な答えはでていません。一応、ラモトリギン、レベチラセタムが今のところ催奇形性の頻度が低いという報告がなされているので、妊娠の可能性のある女性では、現時点では、可能なら、この2剤に変更した方がいいということになります。しかし、2剤とも比較的新しい薬です。年月を重ねてゆくと、思わぬ奇形誘発性がみつかる可能性もゼロとは言えません。それに、使うにしても、この2剤で発作がきちんとコントロールできることが前提となります。発作によって、流産、早産の危険性が高まることが知られていますから、まずは、痙攣のコントロールが大事です。このあたり、かなり難しい判断が要求されます。催奇形性だけを問題にすればいいわけではありません。                                                                                                                                                                                                                                                                    まずは、妊娠前から備えをすることが大事です。複数の抗てんかん薬の併用、高濃度の抗てんかん薬で奇形発生率が高まることはわかっているので、妊娠を予定している女性は、事前に、できうる限り単剤で、必要最小限の血中濃度によって発作をコントロールしておくよう努めることが大切です。しかし、一方で、妊娠中は発作を押さえることも重要ですから、ある程度の多剤併用、血中濃度維持が必要となることもあり、悩ましい選択に直面することも少なくありません。
 抗てんかん薬の中で催奇形性に関して一番問題視されているのはバルプロ酸(VPA)です。とくに、二分脊椎などの神経管閉鎖不全症候群を有する子供が生まれる危険性が高まることが知られています。神経管閉鎖不全症候群の発生率は0.1-0.2%ですが、妊婦さんがバルプロ酸を服用している時、発生率はその10-20倍、すなわち、1-4%になると報告されています。さらに最近、バルプロ酸を服用していたお母さんから生まれたお子さんの3歳時の知能指数が他の抗てんかん薬を服用していたお母さんから生まれたお子さんの知能指数より若干(知能指数として9ポイント、平均IQ 91)低いという報告もなされています(NEAD Study Group1 (2009) Cognitive function at 3 years of age after fetal exposure to antiepileptic drugs. N Engl J Med 16; 360:1597-605)。さらに、自閉症スペクトラム障害の出生の危険性が高まるという報告もあります。こうしたことから、現在、妊娠の可能性のある女性にバルプロ酸を処方しないよう(使わざるをえないのであれば低容量に抑えるよう)勧告がなされています。しかし、妊娠の可能性のある女性のバルプロ酸服用を絶対禁忌にすべきかどうかに関しては今も世界の専門家の間で意見が分かれています。発作コントロール、副作用などの点から、他の抗てんかん薬には代え難いてんかん患者さんが存在するからです。それに、工夫すれば奇形発生の頻度も下げることができます。
 バルプロ酸の催奇形性は、服用量が1000mg、血中濃度が70μg/mlを超えたとき、あるいは、フェニトイン(PHT)やカルバマゼピン(CBZ)との併用時、高まることが知られています。ですから、バルプロ酸服用時は、フェニトインやカルバマゼピンとの併用を避け、血中濃度を低めに保てば奇形児出生の危険性は抑えられます。しかし、それもかなわぬとなれば、他の抗てんかん薬への変更も致し方ないことになります。ちなみに、バルプロ酸服用時、もっとも問題となるのは毒性の強いバルプロ酸の代謝産物の一つ、4-en-VPAです。徐放剤ではこの代謝産物の産生が押さえられるので、バルプロ酸の服用を続行する場合、徐放剤のほうが望ましいともいわれています。
 もう一つ、抗てんかん薬の催奇形性に関連して、葉酸が注目されているので、触れておきます。葉酸はビタミンM、ビタミンBとも呼ばれるビタミンの一種です。タンパク質の構成要素であるアミノ酸や遺伝子を構成する核酸の産生に必要な補酵素で、胎児の成長のためにタンパク質や核酸の需要が高まる妊婦さんでは、どうしても、葉酸が不足気味になります。妊婦さんは葉酸を1日0.5mg以上摂取することが推奨されていて、葉酸を豊富に含む生野菜、果物、レバーなどを意識して沢山とることが望ましいとされています。事実、葉酸を十分摂取することによって二分脊椎などの神経管閉鎖不全症候群の発生率が低く抑えられることがわかっています。一方、抗てんかん薬の多くはこの葉酸の濃度を下げ、これが原因で奇形発生頻度を高めているのかもしれないと疑われています。葉酸の補充は抗てんかん薬による胎児の知能への影響をも和らげるという報告もあります。このため、抗てんかん薬を服用している妊婦さん(もしくは妊娠の可能性のある女性)には葉酸服用が推奨されています。

新生児への影響

 胎児の抗てんかん薬の血中濃度はお母さんの血中濃度と同等かそれよりもやや高いくらいです。このため、フェノバルビタールやベンゾジアセピン系薬剤を服用しているお母さんから生まれた赤ちゃんでは嗜眠傾向がみられることがあります。また、こうした薬剤が体内から消えていく際に、多動、振戦といった「離脱症状」がみられる危険性もあります。さらに、フェノバルビタール、カルバマゼピン、フェニトインではビタミンK欠乏による凝固障害が起きることがあります。このため、こうした薬を飲んでいる妊婦さんでは、妊娠後期のビタミンK補充が推奨されています。
 乳汁に漏れ出る抗てんかん薬もあります。とくに、血液内でタンパク質とあまり結合しない(タンパク結合率が低い)抗てんかん薬は、どうしても乳汁に漏れ出てしまいます。タンパク結合率の低いフェノバルビタール、プリミドン、ガバペンチン、レベチラセタム、エトサクシミド、ルフィナミド、ビガバトリン、ラコサミドなどが、この場合、問題となります。しかし、母乳栄養の重要性を考えれば、こうした薬剤を服用しているお母さんであっても、十分に赤ちゃんをモニターしながら母乳をあげた方がいいでしょう。

主要抗てんかん薬の副作用

 抗てんかん薬の比較的頻度の高い副作用、あるいは、頻度は低くとも重要な副作用を表1にまとめてあります。しかし、繰り返しになりますが、薬の副作用は無限にあります。表にあるのはその中の、ほんの一部にすぎません。
以下に、主要抗てんかん薬の副作用のポイントを述べておきます。

a. フェニトイン

 フェニトインの治療域は10-20μg/mlと狭く、血中濃度が治療域上限の20μg/mlを超えると、まず間違いなく眼振、嘔気、ふらつきなどの副作用が現れます。中毒量が長期にわたると小脳プルキンエ細胞が脱落して小脳萎縮をきたすことさえあります(図2)。
 しかも、やっかいなことに、この治療域でフェニトイン代謝は飽和状態に達します。このため、服用量をほんの少し変えただけで血中濃度は大幅に変動します。10mg増量しただけで、成人でも、あっという間に、治療域にあったはずの血中濃度が治療域上限を突破して副作用がでてしまうことがあります。また、クロバザムやスチルペントールといったフェニトインの代謝に影響を及ぼす薬の追加によって血中濃度が上がることもあります。このため、フェニトインの場合には血中濃度が治療域にはいると、頻回に血中濃度を測定して、量を加減する必要があります。

図2 33歳男性 フェニトインによる小脳萎縮
 3歳時,交通事故による頭部外傷のため左優位の痙性四肢麻痺,知的障害,難治てんかんが残存した.21歳の時,痙攣重積で入院し,それまで朊用していたアレビアチが200mgから300mgに増量になった.この後,発作は月1981年の回程度になったが,歩けなくなり,振戦,眼振もみられるようになった.血中濃度は37μg/mlと治療域上限を超えていた。9歳時(a)のCTに比べ33歳時(b)のCTでは小脳脳回が目立ち,小脳が萎縮していると考えられる.

一方、血中濃度が30μg/mlを超えると発作が増える可能性があることも頭の片隅に入れておいたほうがいいでしょう。
 長期的な副作用としては歯肉増殖、多毛、ニキビ、骨粗鬆症、高血糖、末梢神経障害などがあり、こちらにも目配りが必要です。歯肉増殖はとくに子どもで顕著で、しばしば歯肉切除などの歯科的処置を要します。

b. フェノバルビタール

 フェノバルビタールには鎮静作用があります。ですから、ベンゾジアセピン系薬剤同様、治療域でも集中力低下、知的低下、そして、お子さんの場合ですと過動などの行動異常をきたす可能性があります。このため、最近は、フェノバルビタールの服用はなるべく避けるべきとされています。しかし、一方で、必要以上にフェノバルビタールを忌避すべきではなく、その有効性を活用すべきだという主張もなされています。
 その有効利用の1例が、フェノバルビタール大量療法です。フェノバルビタールはフェニトインと異なり血中治療域が広い薬です。一応、血中濃度30μg/mlが治療域上限とされていますが、てんかん発作重積状態などでは血中濃度を344μg/mlまで上げて治療した例も報告されています。それほどの高い血中濃度でも血圧低下はみられず、250μg/mlでも自発呼吸が保たれることがあります。フェニトインにおける小脳萎縮のような構造的変化は相当高濃度でもフェノバルビタールではほとんどありません。このため、きわめて難治で、生命の危険も脅かすような発作にフェノバルビタールを大量にもちいて治療することがまれにあります。もちろん、これほどの高濃度では傾眠傾向となり、知的低下、生活の質の低下などの副作用は避け得ません。しかし、一時しのぎとしては有効な治療法です。
 長期的な副作用としては、骨粗鬆症、手の変形、肩の拘縮など整形外科的な症状にも留意すべきです。

c. バルプロ酸

 歴史的にバルプロ酸の副作用としていちばん問題となったのは致死性肝障害です。
 バルプロ酸による致死性肝障害は発達の遅れがみられ、多剤治療を受けている2歳未満の子によくみられる、まれな副作用です(500人に1人という試算もありましたが)。肝機能障害を伴う灰白質異常症などの先天性疾患をもっている乳児に起きやすいことが知られています。服薬開始後6カ月以内(とくに2-4か月後)に出現することが多く、発熱、嘔吐、顔面浮腫、筋力低下、発作頻発で発症します。原因はまだよく分かっていません。病理像から、細胞内でエネルギーを産生するミトコンドリアの活動が阻害されるために起きる病態であることが推定されていますが、そこにバルプロ酸がどのように関わっているのかは解明されていません。しかし、いずれにしても、服薬開始前から肝機能異常(正常値の3倍以上)がある赤ちゃん、代謝疾患の家族歴があるお子さんへの投与は避け、3歳未満の子どもでバルプロ酸を服用する場合、できる限り単剤投与を保つことが大事です。
 もっと軽くて、しかし、比較的よくみられる副作用としては脱毛、食欲増進、メタボ腹、血小板減少、高アンモニア血症があります。いずれも、薬を中止しなければならないほどひどいものではありませんが(きわめてまれに、高アンモニア血症による脳症も報告されてはいますが)、食欲増進による肥満などは、度を超すと、他の抗てんかん薬への変更を考慮する必要が出てきます。しかし、逆に、吐き気を伴う胃炎で食欲が落ちることもあります。眠気もよくみられますが、その際注意すべきは、フェノバルビタールとの併用です。バルプロ酸はフェノバルビタールの代謝を阻害してフェノバルビタールの血中濃度を20%前後上昇させ、結果として、眠気を誘発していることがあります。ちなみに、ラモトリギン、ルフィナミドもバルプロ酸によって代謝が阻害されます。
 また、老齢者では、歩行障害、認知症、パーキンソン症候群がみられ、脳の萎縮をきたすこともあるという報告もなされています。
 さらに、これは副作用と単純には言えませんが、バルプロ酸が双極性障害(躁うつ病)の治療薬として用いられていることも頭の片隅に入れておいた方がいいでしょう。気分安定剤として用いられていて、とくに躁状態に対して有効だとされています。実際、服薬と共に「人格がかわった」ようになる方がみえます。さらに、自閉症スペクトラム障害や知的機能障害のある乳幼児で、過敏なためになかなか眠れないときにバルプロ酸が効くこともあります。
 一方、バルプロ酸を中止すると、知らない間に受けていたこれらの恩恵が消えてしまい、なかなか眠れなくなったり、異常行動が増えたりして、困惑することがあります。
 もう一つ、バルプロ酸に関連して、最近、カルニチンの欠乏が話題になっています。
 カルニチンはビタミン様物質です。微量ながら体の中でアミノ酸から作ることができますからビタミンとはいえないのですが、生まれつき作成能力のない人、作成能力が不足している未熟児、菜食主義者、薬などで作成が阻害された人には、ビタミンのように外から補わないと問題を起こします(条件的必要栄養素といいます)。実際、20世紀の初めにロシアでこの物質が肉(carnus(ラテン名))から抽出されたときは、ビタミンと勘違いされました。こうしたことから、カルニチンはビタミン様物質と呼ばれています。
 カルニチンは全身に分布して働いていますが、とくに、筋肉に集中してみられます。細胞内で脂肪酸と結合して、細胞内エネルギー産生小器官であるミトコンドリアに脂肪酸(主として長鎖脂肪酸)を運び入れます。ミトコンドリア内で脂肪酸は酸化分解されて(燃やされて)その過程でCoA(コエンザイムA)ができ、このCoAがクエン酸回路でエネルギーに変換されます。さらに、カルニチンはミトコンドリア内の有毒物質をミトコンドリアの外に運び去る機能もあります。
 このカルニチンが欠乏すると、まずは筋肉のエネルギー産生が阻害されます。それを放置すると、筋肉細胞が破壊されて、筋力が低下し、筋肉痛を生じます。これが心臓で起きると心筋症を引き起こします。さらに、全身のエネルギー産生が低下してエネルギー源のブドウ糖までもが枯渇し、低血糖となります。
 バルプロ酸は腎臓でのカルニチンの排泄を促し、さらには、再吸収を抑えます。このため、元々カルニチンが不足気味の人(たとえば、寝たきりで、筋肉量が少ない人やカルニチン含有量の少ない経腸栄養剤で栄養をとっている人)は用心が必要で、カルニチン値を定期的に確認しておいた方が無難です。低めになると予防的にカルニチン製剤を服用することが推奨されていますが、カルニチンを多く含む食べ物を日頃食べるようにしておくことも一つの手です。カルニチンは牛肉、豚肉、鶏肉、魚などの動物性たんぱく質に多く含まれ、赤身が多ければ多いほど豊富と言われています。ちなみに、ピボシキル基を有する抗生物質(セフカペンボキシル(商品名:フロモックスなど)、セフジトレンピボキシル(商品名:メイアクトなど)、セフテラムピボキシル(トミロン)など)もカルニチンの排泄を促して低カルニチン血症をきたす可能性があります。実際に、これらの抗生物質を服用して低血糖症を起こしたという報告がなされています。とくに、バルプロ酸を服用している子は何らかの感染症でこうした抗生剤が投与される可能性があるので気をつけておいた方がいいでしょう。

. カルバマゼピン

 服用開始時、低濃度であっても眠気、ふらつきなどの副作用がでやすいことは知っておいてください。私も、昔、製薬会社の人からサンプルでもらった100mg錠を試しに一錠飲んでみたところ、数日、耐えがたい眠気、ふらつきが続いたことがあります。しかし、「慣れ」が生じるようで、数週たって、血中濃度が治療域に入れば、そうした副作用はみられなくなります。
 それに、酵素自己誘導といって、自身を体外に排出させる酵素(CYP 3A4)を肝臓に作らせる作用がこの薬にはあります。そのため、同じ服用量であっても、最初の2-4週ぐらいは、半減期が短縮し、血液の濃度がどんどん下がっていきます。服薬開始当初、ときどき血中濃度を測定して服用量をあげていくといった調節が必要なのはこのためです。
 カルバマゼピンは他の薬に対しても同様の酵素誘導作用を有しています。抗てんかん薬に限っても、バルプロ酸、エトサクシミド、トピラマート、ラモトリギン、ストリペントール、ペランパネルの代謝を早めて、血中濃度を下げてしまうことが知られています。
 逆に、カルバマゼピンはCYP 3A4酵素を阻害する薬あるいは果物によって代謝速度が鈍り、血中濃度が上がってしまいます。クラリスロマイシンなどのマクロライド系抗生物質、抗うつ薬のフルオキセチン(プロザック)、オピオイド系鎮痛剤のプロポキシフェン、それに、グレープフルーツです。マクロライド系抗生物質はよく使われる薬ですし(アジスロマイシンだけは影響がありませんが)、グレープフルーツはジュースなどをうっかり飲んでしまう恐れがあるので、注意が必要です。思わぬ眠気、ふらつきなどが出現することがあります。
 カルバマゼピンはフェニトインにくらべ副作用は少ないのに効果は同じだというので、成人では部分発作の第1選択薬として推奨されてきました。しかし、薬疹の出現が比較的高いこと、一部のてんかんでミオクロニー発作や欠神発作を誘発することが問題視されています(ミオクロニー発作や欠神発作に使われるバルプロ酸、エトサクシミドの濃度を下げるためにその発作誘発作用が一段と目立ちます)。また、まれですが、長期連用で不整脈をきたす可能性も指摘されています。もともと不整脈のある人、あるいは、高齢の方は注意が必要です。
 カルバマゼピンは長期服用によっても鎮静作用がでにくく、精神面、行動面への副作用が比較的少ないということで、子どもの部分発作にも好んで使われます。なかでも、知的機能障害を合併した自閉症スペクトラム障害の子に服用していただくことが少なくないのですが、その際、困ってしまう副作用が低ナトリウム血症です。こうした子の中に、強迫的に水を飲む子がいて、一段と、低ナトリウム血症がひどくなってしまいます。症状が現れることはあまりないですが、何が起きるか分からないので、薬を断念せざるをえないこともあります。これは、精神疾患のある成人でも問題となっています。

e. ベンゾジアセピン系薬剤

 特異反応による副作用が少なく、他の抗てんかん薬で薬疹が出た場合、安心して使うことができるという点で、ありがたい薬です。しかし、眠気や唾液過多などは比較的高頻度にみられますし、増量と共に、眼振、失調、ふらつき、構音障害が目立つこともあります。また、「慣れ(tolerance)」による発作コントロールの低下が起きやすいのも困りものです。ただし、眠気などの副作用も「慣れ」がみられ、同じ量でも時間とともに目立たなくなることがあります。

f. ゾニサミド

 副作用としては鎮静作用、ふらつき、めまい、悪心、倦怠感、思考や集中力の低下など、お馴染みのものが並びます。さらに、まれですが、うつなどの精神症状が現れ、このためもあって、苛立ったり、興奮したりすることがあります。

さらに、とくに小児では発汗減少がよくみられます。夏など、汗がでないために熱が体にこもり、顔が真っ赤になることもあります。しかし、ゾニサミドによって汗腺の構造がおかしくなるというわけではないようです。また、熱がこもるといっても、それによって熱中症になってしまうということではありません。多くの場合、時間とともに消失していきます。しかし、夏など注意が必要です。
 腎臓へのカルシウムの沈着、腎結石にも注意が必要です。アルカリ尿、高カルシウム濃度尿が危険因子として指摘されていて、予防対策として十分水分をとることが推奨されています。寝たきりの方、痛みを訴えられない方では、他の抗てんかん薬でも同様ですが、数年に一度は腹部CTをとった方がいいのかも知れません。

g. エトサクシミド

 悪心、嘔吐、胃痛、食思不振、下痢などの消化器症状が比較的多くみられます。しかし、しばらくするとなくなってしまうことがあり、その場合は、服薬の継続は可能です。眠気、不眠、めまい、倦怠感、ふらつきも時々みられますが、これらは、投与量に比例して症状が強くなり、減量でなくなっていきます。一方、頭痛、精神症状、うつ、幻覚などは投与量と無関係で、一旦出ると減量中止を余儀なくされます。きわめてまれですが、重大な副作用として、再生不良性貧血、血小板減少症、無顆粒球症、自己免疫性甲状腺炎があります。

h. トピラメート

 トピラメートはカルバマゼピンほどではないですがCYP 3A4酵素を軽く活性化します。このため、ある程度の用量以上(>200mg?)を服用していると、経口避妊薬の効果が落ちてしまうかもしれないので、注意が必要です。
 トピラメートの副作用としては、他の抗てんかん薬と共通する中枢神経抑制作用、炭酸脱水酵素抑制作用に関連したもの、そして、体重減少がよく知られています。

中枢神経抑制作用としては、言語流暢性障害がトピラメートに特異的です。これは、適切な言葉を見つけだすのに手間取って、流暢に喋ることができなくなる副作用です。しかし、発語が特異的に障害されるわけではなく、思考力や注意力の低下が引き起こす症状だと考えられています。ただし、本人が言葉流暢性障害を自覚していないことがあるので、周りが気をつけてあげる必要があります。
 さらに、鎮静、倦怠、めまい、ふらつき、抑うつがみられることもあります。
 炭酸脱水酵素抑制作用に関連する副作用としては、しびれなどの異常感覚と尿路結石があります。さらに、身体が酸性に傾くために代償性に過呼吸が生じる可能性も指摘されています。子どもでは発汗低下とそれに伴う体温上昇もみられます。
 体重減少の原因はよくわかっていません。GABA受容体増強作用が関与しているのではとの推測もありますが、GABAは一般的に食欲増強作用があると言われているので、話が合いません。体重減少は肥満気味の人に多くみられ、治療開始後3か月目あたりから始まり、1年半ほどでピークに達するという報告がなされています。この「副作用」を利用して、アメリカでは中枢でのノルエピネフリン放出促進作用を有する抗肥満薬フェンテルミンとの合剤が肥満対策治療薬として市販されていますが、日本では市場に出ていません。

i. ギャバペンチン

 比較的安全な薬で、自殺目的で大量に服薬してしまった例でも、後遺症なく回復したという報告があります。また、急激な断薬によってけいれん重積発作を誘発することもありません。
 ギャバペンチンはラモトリジン同様、向精神薬としても使われています。また、ヘルペスや糖尿病などにみられる神経性の痛みを和らげます。それに、もともと、痙性をやわらげる薬として開発されたので、筋の緊張を下げる薬としても使われています。さらに、舞踏運動、振戦などの不随意運動、偏頭痛などにも使われています。このため、副作用についても、そうした抗てんかん薬以外の用法によるものも報告されています。
 他の抗てんかん薬同様、もっとも多い副作用は中枢神経抑制作用による眠気、めまい、ふらつき、倦怠感です。体重増加、それに、ミオクロニー発作誘発も気をつけた方がいいでしょう。さらに、子どもでは情緒不安定、老人では認知機能の低下がみられることがあります。また、過量投与で四肢末端に浮腫をきたすことも報告されています。

j. ラモトリギン

 もっとも注意を要するのは、薬疹です。スティーブン・ジョンソン症候群のような入院を要するひどい全身性薬疹が成人で300例に1人、小児で100例に1人発生するという報告もあります。ただし、これは、他の薬剤と併用した場合で、新たにてんかん発症した患者さんが単独で服用するときには、薬疹の率はカルバマゼピン、フェニトインなどと変わらないという報告もなされています。ラモトリジンの薬疹は、服薬を開始する時、急激に量を増やしていったり、バルプロ酸と併用したりするとでやすいことが知られています。ですから、少量から始めて、ゆっくり増量し、とくに、バルプロ酸との併用時に注意を払えば、発生頻度を減らせるかもしれません。
 薬疹以外には、めまい、目のかすみ、ふらつき、嘔気、嘔吐、頭痛、手指の震えが量を増やすとみられます。とくに、血中濃度が10μg/mlを超えたあたりから注意する必要があり、15μg/mlを超えるとかなりの確率で症状があらわれます。ここで問題となるのは、ラモトリギンの濃度が体調や他の薬剤によってかなり振り回されることです。ラモトリギンはグルクロン酸抱合によって肝臓で代謝され体外に排出されますが、同じ代謝経路のバルプロ酸を併用すると代謝経路を邪魔され、血中濃度が上がってしまいます。バルプロ酸併用時薬疹がでやすいのはこれも一因といわれています。逆に、カルバマゼピンのような酵素誘導薬では血中濃度が下がりますし、エストロゲン系経口避妊薬服用時、そして、妊娠時でも同様です。しかし、妊娠後期になると逆にあがります。こうしたことから、ラモトリジンは何かことあるごとに血中濃度を測ることが推奨されています。
 抗てんかん薬は、どうしても、中枢神経を抑制する方向に働くので、眠気などの鎮静作用がつきものです。しかし、ラモトリジンは他の抗てんかん薬に比べ、鎮静作用が少ない薬です。このため、高齢発症てんかんに最適の抗てんかん薬とされています。

k. レベチラセタム

 レベチラセタムは肝臓での代謝がなされない薬です。そのためでしょう、他の抗てんかん薬の代謝に影響を及ぼさないので、合わせて使う場合、あまり気を遣わなくてもいい薬です。
 よく見かける副作用は他の抗てんかん薬同様、眠気、めまい、無気力です。しかし、注意すべきは、精神症状、行動異常です。妙に落ち着かなくなったり、不機嫌になったりして、ひどいと、暴力行為に走ることもあります。こうした異常行動の根底にはうつ、不安があるともいわれています。しかし、これらが目立ってみられる知的機能障害のあるお子さんの場合、口で言ってもらえないので、わけもわからず、おかしな行動を始めたようにしか見えません。

L. ラコサミド

 もっともよくみられる副作用はめまい、頭痛、悪心、嘔吐、目のかすみ、複視、倦怠感、鎮静作用です。これらは服用量が増えると出やすくなります。また、カルバマゼピンなどのナトリウムチャンネル阻害剤と併用すると出やすいことも知られています。
注意すべきは、心臓の伝導障害です。元々、伝導障害のある人、あるいは、伝導障害を起こしやすい他の薬を飲んでいる人は要注意で、薬を飲み始める前に心電図で確認しておいた方がいいでしょう。

M. ビガバトリン

 やはり、よくみられる副作用は鎮静作用、倦怠感、めまい、それに、ふらつきです。さらに、過敏、行動変化、精神症状、うつ、不眠、体重増加がみられることもあります。
 しかし、何よりも問題なのは進行性非可逆性視野狭窄で30-40%にみられるという報告さえあります。このため、日本では一旦、治験が中止となり、長らく、使えない状態が続いていました。ところが、ウエスト症候群、とくに、結節性硬化症に合併したウエスト症候群のてんかん性スパズムに著効を示すことが海外で報告され、日本でも個人輸入で使う患者さんがでてきました。このため、日本でもようやく販売にこぎ着けたと、いう歴史があります。このため、服薬にあたっては3か月に一回、視野評価が必須となっています。
 さらに、きわめてまれですが、昏迷、興奮、意識障害などを特徴とする脳症症状がみられることがあります。急速に増量した場合、そして、腎機能障害を合併している例に多いといわれています。また、筋肉がこわばったり、つっぱったり、手足の不随運動が現れることもあります。

N. ルフィナミド

 めまい、倦怠感、眠気、頭痛がみられることがあり、一部の小児では嘔吐、食欲低下をきたすことがあります。ラコサミド同様、心臓の調律にも注意が必要です。心電図上のQT感覚を短縮させることがあるので、服薬前に心電図を確認すべきです。

O. ペランパネル

 めまい、眠気、頭痛、倦怠感、ふらつき、目のかすみがみられることがありますが、要注意なのは行動異常です。攻撃的になって人を罵り、とんでもない暴力をふるうことさえあります。患者さんに聞くと「わけもわからず頭にくる」といった答えが返ってきます。知的機能障害を伴う人に出やすく、2割にみられるという報告もあります。
 さらに、緊急避妊薬レボノルゲストレルの代謝を促進し避妊効果を減ずる可能性があるので、避妊中の女性は注意が必要です。

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  10. 薬物濃度モニター「てんかん診療ガイドライン」作成委員会 (編集) (2018) 日本神経学会 (監修) てんかん診療ガイドライン2018

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